会社は時間にはやたらと厳しい。
1分でも遅刻すれば、即座に説教が始まる。
ましてや、無断での遅刻や欠勤は、厳重処罰を免れ得ないという雰囲気があった。
私は、会社に行けない状態であるとしても、無断欠勤にはなりたくなかった。
そんなことをすれば、上司の雷はさらに増幅され、私の人生そのものが
破壊されかねないという恐怖を感じた。
だから、携帯電話を取り出すと、おもむろにこう書いた。
大石課長
お疲れ様です。
安達です。
本日、発熱と体の痛みがひどいため、お休みさせて頂きます。
ご迷惑をおかけして大変申し訳ございません。
どうぞよろしくお願い致します。
上司、そして隣のチームの田口リーダーも宛先に入れて、メールを送信した。
上司だけを宛先に入れた場合、何かの手違いがあって届かなかった場合、
無断欠勤と見なされる危険性を減らすためであった。
送信ボタンを押す前に、私は何度も何度も文面を書き直した。
そして何度も何度も読み返した。
そうやって、わずかな文面を作成して、送るまで、15分近くは費やした。
そして、震える手で、勇気を持って、送信ボタンを押した。
押した後も、送信トレイを開き、本当に送られたかどうか、何度も
何度も確認した。
「ああ、とうとう送ってしまった。
ああ、俺はとうとう、会社に行けなかった。
なんて悪い人間だろう…
なんていうダメ人間だろう…」
自分を責める言葉が、次々と湧き上がり、私を容赦なく攻撃した。
まさしく、崖の上から突き落とされ、奈落の底に転落していくような
恐怖心でいっぱいだった。w
「私はとんでもない方向に足を踏み出してしまった。
ああ、私の人生はもう終わりだ…」
朝の光がさんさんと照らしつける中で、私の心は漆黒の闇の中に
どんどんと沈んでいった。
(続く)