ついに出した退職届

前回
からの続き)

私は、内容証明郵便の配達状況がネット照会で「配達済み」となった時に、ついに退職届を出す決意をした。
もう、時刻は午後4時半近くになっていた。

そして、かばんの中に大事にしまっていた退職届入りの封書を取り出した。
その封書を持つと、パワハラ課長の席に向かって歩き出した。

私は、心臓の鼓動がどくんどくんと体中を揺すぶるかの勢いで高鳴ってくるのを感じていた。
私は課長の席の横に立つと、おもむろにこう切り出した。

「こちらの方、お受け取り願います。」

いったいこの課長はどんな反応をするだろう?
そういう考えが、頭の中を高速で駆け巡った。

そして、表面(おもてめん)に「退職届」と書かれた封書を、両手で丁重に課長の机の上においた。

課長は、その封書の文字に目をやった瞬間、約1秒間、凍りついた。
だが、すぐに冷静さを取り戻すと、こう言った。

「はい、確かに頂戴いたしました。」

いつも部下に対して威張って怒鳴り散らしているパワハラ課長が、部下に対してまるで外部のお客様に対するような慇懃な口調で語ったのは、これが最初で最後であった。

私は、課長が退職届を受領したのを確認すると、軽く礼をして、自席に戻った。

それから数十秒も経たないうちだった。
課長の席の電話が鳴った。

課長はその電話の主に、いつものように卑屈な這いつくばる犬のような声の調子で受け答えを始めた。
明らかに、社長からの電話だろうと推測された。

だが、彼の声は、見る見るうちに、深刻で暗い調子になっていった。
多分、社長は内容証明郵便が届いたから、ただちに社長室に来いと言っているのだろうと思った。

課長は電話を切ると、鬼のような形相を浮かべ、一瞬私を睨んだ。
私は瞬間的に、恐怖から視線を外してしまった。

課長は、その鬼のような形相のまま、足早に部屋を出て行った。

部屋の外から非常階段を駆け上る音が響いてきた。
エレベーターを待たずに、最上階の社長室に駆け上って行ったのであろう。

私は、課長が戻ってくるまでの30分ほどの間を、まるで何もなかったかのように、パソコンの画面とにらめっこしながら、仕事を続けた。
周りの同僚は、今、課長がなぜ社長室に駆け上がって行ったのか、その本当の理由を知る由もないことだろう。

社長室で、課長と社長の間で交わされているであろう、会話はどんなものであったことだろう。
驚きであったろうか、怒りであったろうか、嘲笑であっただろうか。

それは、私には永遠に知る由がない。

だが、パワハラ課長にとっては、最高に屈辱的で、最高に苦痛な瞬間であったに違いない。

そう、これこそが、何年もの間、パワハラ課長の怒鳴り声に我慢に我慢を重ね、出社拒否から回復してから3か月もの間、パワハラ課長の陰湿ないじめに忍耐に忍耐を重ねた月日に対する、「仕返し」を果たした瞬間であった。

私は、心臓がどくどくと波打つのを感じながらも、平静を装って仕事を続けていた。

(続く)

コメント

  1. miyabi27 より:

    1. ついに
    この日が来たのですね(>_<)
    http://ameblo.jp/miyabi27xmas/

  2. あい より:

    2. 無題
    疲れたときに

    聞かれたことあったらすいません

  3. パワハラに負けない より:

    3. Re:ついに
    >miyabi27さん
    ええ、ついに来てしまいました。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

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