1時間半の公開説教

それは、必死に上司の命令に従って仕事をこなしているある日の午後5時頃のことだった。

上司はいつも外出していて忙しい。
顔を合わせるのは週に2回ほどという感じで、あとはメールや電話での指示が多かった。

その日は、突然午後5時頃にオフィスに上司が戻ってきた。
そして、席に着くなりいつもとは違った怖い口調でこう言った。

「安達君、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

私はすぐさま、その上司の席の横に行き、こう言った。

「はい、何でしょうか」

彼は、突然声のトーンを上げると、まるで苛立ったかのような調子でこう言った。

「あのね、あの仕事はもう終わったの?
あれさ、今日の昼までに出してって言っておいたはずだよね?
それがさ、出てないって、どういうこと?」

今までにないような怒りの口調を感じたので、その瞬間、私はビクッとして、緊張度が一気に高まった。

「あ、その件は今、取り組んでおります。
今の状況としては、ここを…」

そのように説明しようとした途端であった。

「何言ってんだよ!言い訳なんかどうでもいいんだよ!
分かってんのか、お前?
お客さんに迷惑をかけているのが、わからねーのか、おめえ?
あ?どうなんだよ?全然、分かってないだろう、おめえ?」

こんな口調で言われたのはこの会社に入って初めてのことだった。
しかも、オフィスの中の20人くらいの人間の目の前で、明らかに全員に聞こえるような大きさの声で叱られているのである。

私は、緊張で全身に汗が噴き出してきた。
心臓の鼓動がどんどんと上がってきた。

「あ、その、えーと、
それは、明日の午後までというお話ではなかったでしょうか…」

「馬鹿か?お前?
昨日、俺はちゃんと伝えただろう?
今日の昼までにまとめてお客さんに送付しておけって?
お前、人の話、聞いてないだろう?」

もう、完全に彼は怒りモードに入っていた。
私は、彼の指示を聞き間違った覚えはまったくなかった。

彼は、確かに2日間の時間を与えたはずだった。
だが、彼は1日でやれと指示したはずだと言い張り、私の説明を嘘だと一方的に決めつけていた。

彼は、とうとう本性を剥き出しにしたのであった。
後に同僚から聞くことになるが、彼はその会社にいるほとんどの部下に対して、このような公開叱責を繰り返した過去を持っていた。

私は、彼の大声での叱責を、20人の社員の前で延々と立たされたまま、1時間半にも渡って受け続けた。
こんな長い公開叱責は、社会人になって初めてのことだった。

それは、入社からまだ1か月目の日のことだった。
上司は、明日の午前中までには仕上げるように厳命して、すぐにまたオフィスを後にした。

私は、その晩、あまりのショックで、仕事をしながらも、心臓の鼓動の高鳴りが抑えられなかった。
不安と恐怖が全身を支配するのを強く感じていた。

私は、夜中の11時50分頃までかかって、必死に資料を読み込んでパワポにまとめる作業を行った。

でも、なぜか涙が出てきた。
涙が頬を伝わってくるのを必死にこらえ、同僚に見られないようにとパソコンの画面の裏に顔を隠すようにして仕事を続けた。

その晩、誰一人として、私に声をかけてくれる人はいなかった。
夜の12時近くになってもまだ3人くらいの社員が必死にパソコンに向かって作業をしていた。

もしかして、彼らは今日は泊まり込む覚悟でプログラム開発を続けているのかもしれない、そう思った。
私は、夜12時直前になって、資料を何とか完成させ、お客様をTOに、上司をCCに入れて、メールで資料を送付した。

私は蚊の鳴くような小さな声で「お疲れ様です」と声をかけると、静かにオフィスを出て、最終電車に間に合わせようと、都営地下鉄線の駅に小走りに急いだ。

その夜は、霧雨の降る、寒い夜だった。
私は、泣きたくなるような不安を一人で抱えながら、この暗闇の夜の中を、家に向かった。

そして、夜中なのに混雑する準急電車の中でつり革につかまりながら、こう思った。

「そう、これが大人世界の厳しさなんだ。
そう、こうやって頑張れば、きっと報われる日がくるんだ。

大丈夫、頑張ろう。
この会社で頑張らなければ、私の未来はないんだ。

大丈夫、頑張れば必ず乗り越えられる。
そう、頑張ろう…」

そうやって、自分で自分を励まそうと必死に心の中でつぶやいた。

だが、いくらそう心の中で強く思おうと努力しても、目に涙が自然と滲み出してくるのを抑えることはできなかった。

(続く)

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コメント

  1. きっと明日は晴れ より:

    1. 大変でしたね
    周囲に聞こえるように大声で
    叱責されるのは、本当に
    辛くて、ショックも大きいですよね。
    しかも、認識が違う理由で
    叱責されたら、色々な負の感情の
    やり場もないですよね。

    本当に、お疲れ様です。
    http://ameblo.jp/sasaeaitai365/

  2. miyabi27 より:

    2. パワハラ上司
    パワハラ上司の特徴ですね。自分の言ったことを忘れているか、敢えて違うことを言って、部下の聞き間違いのようにする。

    なぜ、怒鳴ることでしか人を動かせないのか?

    ブログ読ませてもらいながら、心の中でいつも「頑張れ、頑張れ」って言っています。でも頑張り過ぎないでって。

    続きがまた気になります。
    http://ameblo.jp/miyabi27xmas/

  3. まゆぴょん より:

    3. (#`皿´)
    お疲れ様です。

    読み進むにつれ 段々ムカムカしてきました!!
    パワハラ野郎共の特徴ですよね。
    こちらの意見なんて聞く耳をもたず、言えないほどの圧力を与える!

    こんな奴らは たいてい家では 小さいもんです!
    どうせ水槽の金魚が友達の寂しい奴ら!!(笑)
    そんな妄想でもしなきゃやってられっか!(笑)(笑)

    失礼いたしました(^.^)(-.-)(__)

    http://ameblo.jp/tamayup/

  4. 丈一郎 より:

    4. この気持ちすごくわかります。
    明るい未来に期待し、
    輝かしい未来への希望を胸に
    心機一転、笑顔で元気に頑張ろう!
    BAD STORYなんて想定していない時に
    やる気の鼻っ柱をへし折られ、
    不安と恐怖心でいっぱいになり、
    そのうち自信まで喪失。

    自分も元上司と初めて仕事をする事になった時、
    元上司のことなんて全く知らなかったので、
    何も悪いことをしていないのに突然怒鳴られて
    びっくりしてショックで涙が出そうになりました。
    いや、怒鳴られた翌朝、会社に向かい最寄り駅に着いた時、
    電車に降りたあと一歩も動けなくなって、
    駅の待合室で下向きながら涙を流しながら泣いてしまったことがあります。

    ものすごく、わかります。
    悔し涙じゃないんですよね。

    ものすごくわかります。
    http://ameblo.jp/jouichirou14/

  5. パワハラに負けない より:

    5. Re:大変でしたね
    >きっと明日は晴れさん
    コメントありがとうございます。
    周りに聞こえるような大声で言わずに、会議室などで言ってほしいと思いました。穴があったら入りたいような屈辱的な感じでした。
    あと、部下の釈明を頭から否定するやり方もよくないなと思います。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  6. パワハラに負けない より:

    6. Re:パワハラ上司
    >miyabi27さん
    自分勝手に指示したと思い込んでいて、それが部下にちゃんと伝わっていないのに、一方的に部下のせいにする。しかも、部下の説明に耳を貸そうともしない。
    こういうやり方では人はついてこないですよね。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  7. パワハラに負けない より:

    7. Re:(#`皿´)
    >まゆぴょんさん
    自分だけが正しいと思って部下には強圧的に接するって、部下にとっては本当に苦痛ですよね。こういう上司は、誰も尊敬しないでしょうね。
    この上司、完全に仕事中毒で、土日も関係なく、午前2時とかにも家から指示のメールとか出してきました。多分、奥さんからも呆れられているかもしれません。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  8. パワハラに負けない より:

    8. Re:この気持ちすごくわかります。
    >丈一郎さん
    怒鳴ることって、ある意味、精神的な暴力ですよね。大の大人に対して怒鳴りつけるなんて、人格的な否定だし、尊厳の否定ですよね。そんなことで人を動かそうとするなんて、最低だと思います。
    いくらお金を払っていても、怒鳴りつけることは許されないんだ、違法行為なんだという共通認識を社会に浸透させていかなければならないなと強く思います。
    涙が出るってことは、単なる教育的指導の範疇を越えて、人権侵害行為の域に達していることを示している何よりもの証左だと私は思います。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

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