前回の記事では、PIP (Performance Improvement Plan) 後に団体交渉により職場復帰を果たした際に、社内Wikiの情報を検索して、PIPが「制度」として存在していることを確認したという話をさせて頂いた。
そのWikiを読み、私のようにPIPを課されて、それで生き残った人はいなかったことを確認した。
危機感を募らせた私
だが、PIPから復帰後の業務は、ある意味、精神的に非常にしんどいものであった。
私は1ヶ月のもの間、社員証を取り上げられて出社できなかったので、同僚との間にも微妙な距離感ができていた。
「あれ、安達さん、やめたんじゃなかったの…」
顔を合わせる度に、声にならない声で聞かれているような感じがした。
私は粛々と毎日、プログラミング作業を続けていたが、「何かしなければいけない」という危機感のような、焦りのような気持ちを感じるようになった。
それは、
「なぜPIPという退職強要で死ぬほど苦しんだのに、それを課したあのディレクター(上司の上司)は何らの処罰も受けずに過ごしているのだろう」
というものだった。
裁判を起こすことを決意
そして、私はPIPに対する損害賠償を求めた事例がないか、調べるようになった。
裁判所に通って、かつてのPIP関連の裁判の資料も、いくつも読んだ。
そして、私は決意した。
「そうだ、裁判を起こそう」
やはり、何もなかったのように今まで通りのオフィス生活はできない。
そう思った。
退職を強要する録音のテキスト起こし
そう決意した日から私は、裁判のために必要な証拠の作成に動き始めた。
まず第一に始めたのは、PIPが始まる前にディレクターとの1 on 1の場で言われた
「PIPを受けてパスしなければ、やめなければいけなくなる。
そうなる位なら、今の時点で転職活動を始めたほうがいいんじゃないか?」
という言葉だった。
私はそれを断ったにも関わらず、1度のみならず、1 on 1の度に繰り返し言われたのである。
それはまさに、「退職勧奨」の域を超え、「退職強要」そのものであった。
それは、ポケットに隠していたiPhoneでバッチリと録音をしていた。
(なお、このような録音は秘密に行われているとしても、盗聴にはあたらず有効な証拠として採用されることは、それまでの判例でも示されている。)
だが、それを自分がテキストにしても、信用性が担保できないのは明らかだった。
そこで私は、当時、はやり始めていた「クラウドワークス」というサービスを使って、委託することとした。
通常、業者に頼めば、テープ起こしは30分の内容でも5000円とか1万円とかの値段である。
しかし、クラウドワークスで募集してみると、なんと1時間の録音を1000円でも引き受けてくれる人が多くいた。
ディレクターとの1 on 1で、ぜひテキストに起こしたい内容は全部で5つほど(5時間ほど)あったので、それを全部クラウドワークスで依頼することにした。
複数人に分散して依頼したため、テキストはおおよそ、2週間ほどで仕上がってきた。
地獄のようなテープ聞き直しとテキスト校正作業
それはWord形式で納品されたのだが、やはりその会社特有の言葉とかの部分は、かなり間違いが散見された。
なので、私は昼休みの時間、オフィスの入っている新宿高層ビルのレストラン街に行って、そこに自由に座れる場所があったので、イヤホンで録音を聞きながら、テキストを確認し、間違った部分を徹底的に直していった。
ディレクターとの会話を聞き直すのは、実は相当に精神的に負荷が高かった。
私の能力を否定し、私に会社を辞めるよう勧める内容なので、誰が好き好んでそんな内容を聞きたいと思うだろうか。
プライドはずたずたに引き裂かれ、自信感を失い、気分が落ち込むことが何回もあった。
それはまさに地獄のような苦しみであった。
しかし、私は鬼の決意でひたすら何時間分ものテープを聞き、テキストの校正作業を進めていった。
それは、おおよそ1ヶ月にも及ぶ苦しい作業だった。
こうして出来上がったテキストは、「反訳書」という名前で、訴状に証拠資料として添付した。
訴状の作成
そして家に帰ってからは、訴状の作成を頑張った。
昼間、仕事で疲れているのに、家でまたその作業をするのは、かなりしんどいものであった。
しかも、訴状はA4で1ページあたり26行、1行あたり37文字で書かなければいけないというルールがあった。
こういうものを、法律のド素人である一エンジニアが一から作っていくのは、本当に大変なことであった。
なお、裁判には通常の公開裁判と、労働問題に特化した非公開の審理で進められる労働審判というものがあった。
ネットで調べると、労働審判の方が手続きが簡素で、労働者に有利な判決が出やすいという声が多かったので、労働審判で進めることにした。
訴状はある意味、自由に記述ができるが、やはり有効に自分の主張を伝えるためには、順序だって書く必要があった。
私は、何度も何度も推敲を繰り返し、以下のような構成とした。
- 第1 申立ての趣旨
- 第2 申立ての理由
- 第3 予想される争点及び争点に関連する重要な事実
- 第4 申立てに至る経緯の概要
これはなんと23ページもの長大な文章となった。
そして、労働契約書とか反訳書、メール書面など9点を証拠資料として添付した。
この訴状の作成は、3ヶ月間にも及んだ。
毎日、精神的にも肉体的にも辛かったが、3ヶ月間、鬼のような決意で頑張り、そして、完成させた。
それは、私にとって、一生忘れられないくらいの、大変な期間の一つとなった。
(続く)
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