台湾の空港について、入国審査を待っている時だった。
私は、おそるおそる上司に話しかけてみた。
「台湾はすごくいい天気みたいですね。」
「ああ」
いろいろ話しかけてみたが、彼は明らかにふてくされたような表情で、最低限の受け答えしかしなかった。
明らかに、社長の指導を受けたことを根に持っているような感じだった。
ホテルにはレンタカーで向かった。
そのホテルは、お世辞にもきれいとは言えない2つ星級の安ホテルだった。
フロントの女性は愛想笑いも浮かべず、仕事だからという感じで事務的に作業をしていた。
部屋に入ってみたが、ベットが二つ、机が一つ、椅子が二つの簡素な作りの部屋で、窓の外は別のビルの壁だった。
ここで、一週間一緒に二人で過ごすのか…
そう思うと、気が滅入った。
彼は、怒ったようなぶっきらぼうな調子の声で、ようやく口を開いた。
「安達君、早く準備して!
お客さんと一緒に、午後4時からH社に行って、会議しないといけないんだから。」
私はせかされるように準備をすると、既に現地に入っていたお客様のA社の宮本課長のいるホテルに向かった。
レンタカーの車窓から見る街の風景は、異国の刺激で溢れていた。
その刺激だけが、クソ上司と一緒にいることを忘れさせてくれる、唯一の喜びだった。
お客様の宮本課長が泊まっているホテルは、さすが一流企業の管理職クラスが泊まるだけあって、立派な敷地に立つ、5つ星ホテルであった。
地元企業のH社との会議は英語で進められた。
私はパソコンで一生懸命議事録を取る役割だったが、ところどころ聞き取れない英語があり、恐る恐る上司に確認を取って、補完していった。
その夜は、H社の重役を招いての夕食接待を行った。
だが、私は、レストランの豪華な椅子に座りながら、食事もとらずに日本から持ち込んできた仕事の続きをやっていた。
ウェイターが「こんな場で仕事?」という目で私をちらっとみた。
ワインを片手に話し合う上司やお客様達4人の片隅で、純白のテーブルクロスがかかった机の上にパソコンを置いて、ひたすらパワポの資料作りを進めた。
日本にいるA社の部長に一日一回、進捗資料を送らなければならないのだが、その日は、H社との会議の内容を送るのが仕事だったのだ。
1時間かかって、ようやく資料をまとめ、上司に了承をもらうと、私はかき込むように食事を10分で腹に流し込んだ。
何を食べたかは覚えていない。
夜景が素晴らしいいい雰囲気の一流レストランだったが、そんなことを楽しむ余裕などまったくなかった。
そして、その後、すぐにホテルに戻ると、夜11時までかかって別の資料も完成させ、上司のパソコンから日本にメールで送付した。
そうやって、台湾の第1日目は終わった。
上司がシャワーをして、その後、私がシャワーをして、ベットに入ろうとした。
しかし、上司は何やらパソコンに向かって一生懸命仕事をしていた。
私は、先に寝るのが申し訳ないと思ったので、午前1時半近くまで資料をベットの上で読み込むふりをした。
でも、疲れが先立ってしまって、あくびがしきりと出て、あまり頭に入ってこなかった。
仕事中毒の上司はいっこうに休む気配がなかったので、私は勇気を出して、「お先に休ませて頂きます」と言って、布団にもぐりこんだ。
こうやって、何のプライベート空間もない、上司との相部屋出張生活の一日目が過ぎ去っていった。
(続く)
コメント
1. 無題
上司怖いですね…先に寝るのも怖くてずっと起きてしまいそうです。
タイはカラフルな寺院や仏像がたくさんあって癒される場所なのに辛いですよね。
英語リアルタイムで聞き取れるの凄いですね!私なら録音しないと無理です…
http://ameblo.jp/orangeorange-orange/
2. Re:無題
>オレンジ~パワハラ鬱と闘い中さん
上司と寝る部屋も一緒って、本当にくつろげなかったです。
http://ameblo.jp/anti-pawahara/
3. 無題
ホテルに帰ってからも まったく気が抜けない状況…ありえないですね。
クタクタで すぐにでも寝たいのに(-.-)
相当なストレスですよね。
http://ameblo.jp/tamayup/
4. Re:無題
>まゆぴょんさん
この上司は本当に仕事ばっかりの人だったので大変でした。やはり、別部屋じゃないと、心が全然休めないです。
http://ameblo.jp/anti-pawahara/
5. 相部屋
私も、無理矢理同居をさせられて
プライベートの区別も無い状況で
相部屋生活を続けざるを得ない
経験がありましたが、
本当にストレスがたまり、
休養がとれないですよね。
http://ameblo.jp/sasaeaitai365/
6. Re:相部屋
>きっと明日は晴れさん
それは一時的なホテルの相部屋よりきついですね。会社の人と24時間いるのは精神的に休まらないですね。
http://ameblo.jp/anti-pawahara/
7. 無題
現在、似たような上司と駐在で一緒に仕事をしているので、とても共感してしまいました。
高級レストランで、ウェイターに怪訝な顔をされながら、責められて仕事する方が他にもいたとは(笑)自分だけではないというのは、少し救われるものですね。
今、その上司と苦しんでいるまっただ中で、どうすればいいかわからなくなっていまっているので、、こちらのブログでどのように対応されたのか読めるのを楽しみにしています!
8. Re:無題
>モカさん
同じような経験をされたのですね。
レストランの場で皆が歓談している脇でパソコンを開いて仕事というのは、惨めな感じでした。
http://ameblo.jp/anti-pawahara/