パワハラ元上司からの突然の電話

それは失業して1か月半ほど経った頃だった。
突然、私の携帯電話が鳴った。
画面表示を見ると、なんと前の会社のパワハラ上司の名前が表示されていた。
私は一瞬、ぎょっとした。
「いったい、なぜ今、私に?」
変な期待と警戒が入り混じった感情が湧いたが、3回ほど振動音が鳴った後、勇気を持って電話に出た。
「あ、私だけど、安達君?
ま、ま、待って、電話を切らないでくれる?」
彼は焦った調子の声で、電話を切らないように早口で懇願した。
私はすぐさま答えた。
「あっ、はい。」
彼は安心したのか、やや落ち着いた声で話し始めた。
「実はね、私もあの会社を辞めることになったよ。」
私は内心、かなりびっくりした。
パワハラを行う嫌な上司であったが、彼はいろいろと大企業との人脈も太く、能力もあったので、あの会社にはなくてはならない存在だと思っていたからだ。
「それでね、今は、安達君が辞める時と同じ目に遭っているんだよ。
あの社長にね。」
私は、彼の発言にかなり驚いた。
私が退職直前に受けた陰湿ないじめ、即刻退去命令、大幅な減給処分、自己都合扱いでの退職処理…
まさか、そのような嫌がらせを、この元上司も受けているのだろうか?
そういう想像が頭をよぎった。
だが、私は、その詳細をこの元パワハラ上司に突っ込んで確認するほどの勇気はなかった。
私は、どう反応していいかほとんど分からず無言のまま電話を握っていると、彼はこう続けた。
「社長から聞いたよ。
会社都合扱いの退職を、自己都合扱いにしてやったとね。

なんか君は相当にひどいことを会社にしたみたいだね。」
私は内心、かなり憤った。
労働局に斡旋を申請したことや、残業代を要求したこと、あるいは人事部長のいじめを社長に訴えたことを、「ひどいこと」と言っているのだろうか?と。
私は、この元上司に徹底的に反論したい気持ちに駆られたが、それをぐっとこらえて、一言、こうとだけ言った。
「いや、そんなこと、していません。」
上司はそれを聞いてこう言った。
「そうだね、あの社長の話がどこまで本当かは分からないからね。」
少し間をおくと、彼はこう続けた。
「安達君がもし退職理由の訂正を求めるならば、私は社長からのメールを証拠として提出するよ。
君の退職は自己都合なんかじゃないというのが私の認識だし、それを覆した社長の処分はひどいと私は思っているからね。」

「あ、はい。」
私は、このパワハラ上司の妙な正義感にとても驚いたが、それはとてもありがたい言葉でもあった。
だが、彼はこうも言った。
「だけどね、それは訴訟を起こした時に限らせてもらうよ。」
3年経っての結論から言うと、この会社相手に私は退職理由を争う訴訟を起こすことはなかった。
その理由は、また、別の記事でおいおい書くつもりだ。
だから、私は社長が会社都合と明記して送ったというそのパワハラ部長宛のメールを目にすることは永遠になかった。
だが、元上司が、管理職しか見ることのないメールを、ヒラであった私に開示すると言うのだから、その言葉だけでもありがたかった。
上司は次に私の転職活動の状況について尋ねてきた。
私は、ある外資系の会社との一次面接を終え、その結果を待っているところだと伝えた。
すると、彼は驚くべき発言をしてきた。
「順調に進んでいるようだね。
安達君がどうなっているのか、ずっと心配していたんだよ。

外資系なら、リファレンスチェックがあると思うから、その場合は、協力させてもらうから、いつでも連絡してね。
昔の部下が次の人生を踏み出せるようにするのが、上司としての責任だと思っているからね。」
私はこの上司の話を聞いて相当に驚くとともに、昔、激しく怒鳴られたり公開叱責で苦しめられた恨みが、半減していくような感覚を覚えていた。
私は今でもこの会社の社長のことは許せずにいるのだが、この上司に対する恨みは1/10程になった。
それは、彼が私のためにこのように好意的な協力を自ら申し出てきてくれたためである。
パワハラの恨みはなかなか消えないものだが、このように当事者が、謝罪なり反省などを示し、それを償おうとするような行動を見せてくれれば、驚くほど簡単にその恨みは瓦解していく。
パワハラ訴訟を起こして、長い時間と大変な労力の上で30万円を賠償金として勝ち取って、加害者からは謝罪の言葉一つない状態よりは、このように一円の金銭の支払いがなくても、たった一つの誠意ある言動が、被害者の恨みを一瞬にして、激減させる効果があり、遥かにましなのだ。
それを私は身を持って感じたのであった。
電話を切った後、私の頭の中ではいろいろな想像が駆け巡った。
あのプロジェクトはあと半年は契約があるはずなのに、上司が抜けたということは、契約自体、解除になったのだろうか。
だとすれば、会社にとっては大損害だろうな。
私の後を引き継いだあの先輩社員は、結局、ダメだったということだろうか。
だとすれば、私に問題があるとか言っていた社長の言葉は嘘だったことが立証されたことになるだろうな。
やっぱ、あの傲慢要求顧客の前では、誰だって信任を得られるはずなんてないよな。
上司も社長から同じ目にあったって?
いったいどんな目にあったって言うのだろう。
この有能な上司ですら、社長から理不尽な仕打ちを受けたとしたら、私が退職寸前に受けた仕打ちは、私だけに向けられたものではないことの絶対的な証拠だな。
やっぱ、あの社長は、退職が決まった人間に対して、例外なく冷たい仕打ちをしてキレられることをやる、最低な奴だったんだな。
そんな想像が、その後、数日に渡って頭の中を駆け巡った。
人は普通パワハラを受けると、自分が悪い、自分の努力不足が原因だと、自分を責めてしまいがちだ。
その時、会社や上司に認めてもらえるように、仕事の上で頑張ったり、人間関係に気を配ったりすることは、悪いことではない。
でも、自分が120%、いや150%の力を尽くして、長い間努力してみても、どうしても状況が改善されない場合がある。
その場合は、会社側に問題がある場合が多い。
理不尽なほど厳しい成果追求、長時間のサービス残業を要求する雰囲気、気に入らない人間を公然と叩く管理職や古参社員などなど…
このような強烈な障壁が会社内に存在していたら、自分一人の力ではどうしようもないことも多い。
パワハラに打ち勝つための必要条件は、一人で悩まないことと、知識武装をすることだ。
同じ職場で同様に苦しんでいる人を見つけたら、一緒にランチに行って、情報交換したり、愚痴を言い合ったりして、孤立しないように努めてほしい。
また、サービス残業は労働基準法違反であり、パワハラは重大な人権侵害行為であるという明確な認識を持つことも重要だ。
労働局や労働組合の相談窓口を利用したりして、いざという時にそれらの力を使って実力で反撃できるような準備をしておくことが大切だ。
パワハラは、閾値を超えてしまうと、突然の出社拒否に陥ったり、発作的な退職に結びついたりする危険性を秘めている。
だから、自分は大丈夫、耐えて見せるとだけ思わずに、変なプライドは捨てて、最悪の場合に備えて、つねに心も体も準備しておくことが大切だ。
それが、3年間パワハラに苦しみ、3回の退社を余儀なくされ、人生に何度も絶望した私から言える唯一のアドバイスである。
パワハラに打ち勝つのは容易ではない。
でも諦めなければ、希望を捨てなければ、必ずパワハラを克服できる道が現れるはずである。

ぜひ頑張ってほしい。

コメント

  1. オレンジ より:

    1. 無題
    ビックリしました。
    なんか、元上司の人って凄く都合がいいなって。
    自分がやったこと、ちゃんと反省しているのかな、って。

    同じ境遇になってやっとわかるのでは遅すぎるんですよね。
    http://ameblo.jp/fightworks2013/

  2. 真理子 より:

    2. 無題
    元上司さん、自分がしてきた事を謝罪してないですね。なんか怪しい気がします。
    (;¬_¬)
    http://ameblo.jp/blogland/

  3. パワハラに負けない より:

    3. Re:無題
    >オレンジさん
    元上司の話ぶりからは、私が恨みを抱いていることを察している様子でした。
    怒鳴って公開叱責して、3か月で退職、失業に追い込んだのですから、それも分からないようでは困ります。
    いずれにしても、失業という現実は変わりませんでした。
    今は、この上司よりも、その背後の黒幕である社長の方が、100倍も許せない気持ちです。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  4. パワハラに負けない より:

    4. Re:無題
    >真理子さん
    コメントありがとうございます。
    この上司もプライドの高そうな人でしたから、部下に謝罪などできないタイプの人かもしれません。
    激しく怒鳴られたことは忘れられないですし、たとえ謝罪されても、その心の傷は簡単には癒されないものと思います。
    まったく連絡をしてこない前々社のパワハラクソ上司よりはマシかなとは思います。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  5. 真理子 より:

    5. 無題
    >パワハラに負けないさん

    確かにおっしゃる通りマシですね。
    http://ameblo.jp/blogland/

  6. うら美 より:

    6. でも…。
    今晩は
    放射能問題の後も色々とありまして…。やっぱり、あの上司嫌いです。謝罪できない、私より強い人(人をみるんです、嫌らしいですね)には良いことしか言わない、私に難しい仕事を押し付けて言いたい放題。
    嫌気がさします。
    でも、負けずに生きていきます。

  7. パワハラに負けない より:

    7. Re:でも…。
    >うら美さん
    その上司、立場が弱い者には強く出るなんて、パワハラ上司の典型ですね。
    上にペコペコして下には怒鳴り散らすのがたいていのパワハラ上司のパターンです。
    どうかパワハラに負けず頑張れるようにお祈りしています。
    いつか必ず転機が来ることを願って。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  8. 私も負けません より:

    8. ブログ拝見しました
    私も前職にてパワハラを経験し、転職先でもパワハラを受けました。
    前職では上司がパワハラ上司だったのですが、なぜか私は扱いやすかったのかお気に入りのようで、罵声を受けることはありませんでしたが、パワハラ上司の自分勝手な仕事の仕方についていけず、モチベーションを保つことがとても難しかったです。
    自分の思い通りにならないと『俺は課長だ。言うことを聞かない奴はいらない』というのが口癖でした。
    関連部署の課長がパワハラ上司の影響でうつ病になってしまったり、パワハラ上司で有名な課長だったので、自分は被害を受けていなくても部下でいることが恥ずかしかったです。
    再三の異動希望がかなわず、(異動にはパワハラ上司の采配は及ぶ範囲にありません)転職を考えた際に、とんとん拍子で面接に通り、転職を決めました。月収が倍以上になり、転職に成功したと思っていました。
    転職先では、感情的で人前で怒鳴ることを厭わないタイプのパワハラ上司にあたりました。転職活動の際、一時面接で会っていましたが、面接ではとても見抜けなかったです。。
    パワハラ上司に私の名前が呼ばれるたびに、周りの空気が凍りつくことを感じました。パワハラ上司の席の横に立たされ、永遠と罵声を浴びました。見下した目付きで見られ、鼻で笑われ、いらいらと貧乏ゆすりをし。。。
    ドキュメント作成の指示を受け提出すると、一文一文に対して『この文の書き方はどうなの?』『この文はこうじゃないの?』といつまでもネチネチと言われました。
    業務をする上で、すべての意見が合わず、頭ごなしに否定されていたような状況でした。
    パワハラ上司が正しい、私が役立たずで力不足と信じ込まされていました。
    しかし、業務が進む中で、私が指摘したことが正しかったり、上司の指示に従ったことにより会社に損失を出すことになったこともあり、この会社に見切りをつける決心ができました。次に向けて頑張ります。

    長文乱文失礼いたしました。

  9. クイーン エリザベス より:

    9. 元上司の
    言葉を信じられますか?

    私はむしろ

    この男が自分の保身のためだけにしか

    動かない

    卑劣な男に見えて仕方ありませんが…

    その時その時

    都合の良い方に取り入る

    コウモリ

    なんじゃないでしょうか?
    http://ameblo.jp/yumiri43/

  10. パワハラに負けない より:

    10. Re:ブログ拝見しました
    >私も負けませんさん
    俺は課長だ、なんて傲慢なパワハラ上司そのものですね。
    部下は自分の駒に過ぎないという考えをよく示しています。
    転職先の上司も皆の前で罵声を浴びせるなど、完全に黒のパワハラ行為を行っていますね。
    部下がうつ病になったり、自殺しても、上司が処分されない会社があるので、本当にやりきれない感じです。
    面接時に見抜くのはほとんど不可能で、ネットの情報などを事前にリサーチするなどの他はなかなか外からの判断は難しいのが現状です。
    もう見切りをつけられているとのことですので、次の会社がホワイトである事を心よりお祈りいたします。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  11. パワハラに負けない より:

    11. Re:元上司の
    >クイーン エリザベスさん
    コメントありがとうございます。
    元上司のことは、やはり完全に信じ切ることは難しいです。
    なぜなら皆の前で1時間以上も説教されたり、密室で性格をなじられ怒鳴りつけられたことは事実だからです。
    パワハラ上司はパワハラを起こしても問責されず、むしろ部下が病気や退社という形でツケを払わさられます。
    だから、部下の立場の人は、最大限防備して、最悪の事態にいつでも立ち向かえるように準備をしておく必要があるかなと思います。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  12. aya より:

    12. 無題
    2年以上に渡る上司の嫌がらせが続き。

    昨日、退職の旨を伝えたばかりでした。

    同じ日に辞める同僚はパワハラで裁判を起こすと張り切ってます。

    私は…相変わらず弱いまま、何もできないまま。

    ダメダメです…

  13. パワハラに負けない より:

    13. Re:無題
    >ayaさん
    2年間よく頑張りましたね。
    それだけでもすごい実績だと思います。
    自分の心の保養を大切にすることでいいと思います。
    戦うのは後からでもできますから。
    元気を出してくださいね。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

  14. 青い空 より:

    14. 無題
    そんな 人って、家族関係が上手くいってない人が多いですよ、愚痴ってる上司は全部そうでした、いま苛めを受けてる人は負けないでください。受けた人は忘れましょう、相手は哀れな末路 が待ってますから、でも謝罪を入れた上司はある程度まともだったん だ。

  15. 青い空 より:

    15. 無題
    私も上司に無理難題をだされ病気になり、極限状態まで行きましたが、辞める方法を選びました。
    関連団体のトップに実名をあげ手紙を書きました
    家族の話しではトップの態度が気をつかうようになったみたいです、しかし、その上司からは謝罪ひとつありません、勿論許しません、あんなに街
    に出てた上司が影ひとつみないようになりました
    街中であったら調子が悪いんでしょう、手紙のおかげで組織全体が知ることになり、広報も出ないです、その組織のサイトも組織自体削除したようです、イメージがた落ちですから。本人は在職してるか分かりませんが、針のむしろでしょう。
    一度だけ見かけたことがありますが、頭は白髪で老人 みたいになってました、あまりの変わりように絶句しました。元々、友達もなく家族からも無視されてましたので、その後は想像できます。
    でも忘れたいです。

  16. パワハラに負けない より:

    16. Re:無題
    >青い空さん
    パワハラ上司への復讐を成功させたようで、素晴らしいことだと思います。
    なかなか上司の落ち目を目にすることは難しいのですが、こういう姿を目にすると、世の中、逃げ得は許されないんだなということを強く感じます。
    家族関係がうまくいかないから、仕事の上で弱い立場の人間に怒鳴り散らす。
    本当に、パワハラ上司とは、そういうものかもしれませんね。
    自信のなさの裏返しかもしれませんね。
    パワハラはでも、部下の人生を破壊する凶悪な犯罪と言ってもいいので、こういう上司には断固とした毅然とした対応が必要なのだろうなと思います。
    コメントありがとうございました。
    http://ameblo.jp/anti-pawahara/

タイトルとURLをコピーしました