前回の記事では、退職を勧められ、週末の2日間を地獄のような闇の中で過ごしたことを書かせて頂いた。
孤独の中で自問自答した2日間
私は家族にも相談できず、孤独の中で自問自答した。
「こんな風に簡単に辞めさせられてもいいのだろうか?
3か月分の給料を出すから、その間に転職活動しろだと?
俺は、何年間も骨身を削って仕事をしてきたのに、ちょっと文句を言っただけで、即クビか?
もう、歳も若くない。
また、失業するなんてこりごりだ。」
私はそう心の中で繰り返していた。
ついに月曜日が来た
私は、月曜日、おそるおそる出社した。
何をするともなくメールをチェックして読んでいると、突然電話が鳴った。
あのディレクターからの呼び出しだった。
私は早速、iPhoneのボイスメモを立ち上げ、機内モードにセットすると、録音を開始した。
そしてディレクターの部屋へ
私は、ディレクターの部屋に入り、扉を閉めた。
ディレクターは、私が椅子に腰掛けると早速話を切り出した。
「安達君、先週話した内容について、考えてきてくれたかな?」
彼は、明らかに私が「はい、辞めます」と言うことを期待している様子だった。
私は、緊張でドクドクと高鳴る心臓の鼓動を感じながらも、しっかりとこう答えた。
ノーと答えた私
「実は、私、何とかここで頑張ろうかと思っています。」
その瞬間、ディレクターの顔に一瞬、驚きとも悲しみとも怒りとも取れない複雑な表情が浮かんだことを、私は一生忘れない。
彼は、少し当惑したような雰囲気を出しながらも、先週金曜日と同じ話を再度始めた。
それは、週末の間、私が頭の中で何度も繰り返し再生した内容だった。
だが、私は2日間、真剣に考えた挙句、最終的に「辞めない」という結論を出したのだ。
今、ディレクターに延々と同じことを言われても、私は考えを変えないだろう、という一種の自信に似た気持ちすら持っていた。
恐るべきPIPの内容
15分間説得しても、私が頑として首を縦に振らないのを見て、彼は、最後にこう念押しした。
「あなたには、パフォーマンスの改善プログラムを受けてもらう。
課題を与えるから、それをやってもらう。
毎週、マネージャー達でレビューして、成果を確認する。
それを4回繰り返す。
4回とも合格すれば、残って仕事を続けることができる。
途中で1回でも不合格になれば、直ちに辞めてもらう。
その場合、3か月分の給料を出すという話はなしだ。
このプログラム受講は業務命令だから、拒否することはできない。
さあ、今からでも退職を選択するなら、貴方には3か月の給料を出し、転職支援サービスも付けてあげよう。
それがいいと思うのだが、どうかね?
これが最後の選択のチャンスだ。」
PIPは強制であった
私はこの最終通告を受けて、胸の鼓動が更に高まった。
もはやそれは問いかけではなく、嫌だとか、変に反抗的な言葉は一切受け入れないぞ、という完全に地位と権限を背景にした命令そのものであった。
だが、私は今さらすべてを投げ出して、ディレクター、ひいては会社の前にひれ伏すつもりなど微塵だになかった。
なぜ辞めなかったのか
読者の中には、こんな疑問を持つ人もいるかもしれない。
「なんで安達さんは、こんないい条件で辞められるのに、それを受けなかったのですか?」と。
その答えは、こうだ。
「私は、かつて2度もパワハラで会社を追われ、失業した。
今もまた、上司の過酷な実績追求でボロボロになり、捨てられようとしている。
私はもう39歳だ。
ここを辞めても、次の転職先が見つかる保障はどこにもない。
たとえ3か月の給料をただで貰えたとしてもだ。
焦って就職して、またパワハラが横行するブラック企業に入り、更に傷つき、ボロボロになるかもしれない。
そうなったらおしまいだ。
私は、精神に修復不可能なダメージを受け、敗北感と挫折感でいっぱいになり、もうまともに前を向いて歩いてはいけなくなるだろう。
そして、家族も失い、家も失い、悲惨な人間になって余生を送るしかない。
2度もそんな恐怖を経験したのに、また3度もこれを経験するなんて、まっぴらごめんだ!」
心の叫び
それが、私の心の叫びであった。
もし、私が退職を迫られるのが、今回、人生で初めてだったら、精神を相当に取り乱し、「はい」と答えたことだろう。
しかし、この時はまさに人生3度目の退職勧奨であったため、私も覚悟が決まっていた。
「そう、辞めたら負けだ。
辞めると口にした途端、彼らは態度を冷酷に急変させるだろう。
それはもう2度も、嫌というほど身にしみて経験した。
そして、退職の日まで、会社からの冷たい仕打ちに耐えて過ごさなければならない。
そう、辞めたら、私は正社員として法律に基づいて保証されたすべての権利を、一瞬にしてドブに捨てることになる。
私がマネージャーから過酷に追求されながら、土日出社までして会社に捧げた貴重な人生の時間は、すべて無駄になる。」
私はそう思いながら、ディレクターの話を聞いていた。
そして言った。
PIPを受けますと返答
「はい、その改善プログラムを受けたいと思います。」
ディレクターの表情は、もう、侮蔑とも冷酷とも取れないその冷たい表情を変えることはなかった。
鬼のような厳しい視線で私を睨み付けていた。
多分、この会社で退職勧奨を断った人間は、今までいなかったのであろう。
私のように温厚でおとなしく見える外見の人間から、まさかノーを突きつけられるとは、全く想像すらしなかったのだろう。
彼の驚きは、その雰囲気から淡々と伝わってきた。
それは地獄への扉を開いた瞬間
そして、私はディレクターの部屋を出た。
その日はもうそれ以上、何も起きなかった。
しかし、それがまさしく明日から始まる PIP (Performance Improvement Plan) という地獄の退職強要プログラムへの未知の扉を開いてしまった瞬間であるとは、まだその時はぼんやりとしか認識していなかった。
(続く)
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