ここでは軽く「退職勧奨」という言葉を使わせてもらったが、私に行われたそれは、決してそのようなものではなかった。
退職勧奨とは本来、本人の意志や考えを尊重しながら、「退職について考えてくれないか」と会社から従業員に軽く打診することである。
それは、1度、2度であれば問題ないが、本人が拒否しているにも関わらず何度も繰り返し行ったり、勧奨の仕方がひどい場合(脅迫、暴言、侮辱、人格否定など)は、不法行為となる。
不法行為とは、法律(民法、刑法)に違反する行為で、それにより損害を受けた場合は、相手に損害賠償を要求することができるようになる。
計5回、2時間半に渡る “解雇” 面談
とても信じてもらえないかもしれないが、私の場合は、わずか1か月半の間に、30分、30分、10分、30分、50分と5回に渡って面談を受け、いずれも「退職しなければ解雇する」という発言を何回も繰り返して、退職を迫ってきた。
会社員のみなさんなら想像が付くと思うが、上司、あるいは上司の上司から呼び出されて、密室でこのような言葉を何度も繰り返し聞かされれば、普通の人間ならその精神的な衝撃は相当なものであろう。
当然、仕事に集中する力はなくなり、会社への忠誠心も失われ、もうダメだという絶望感に襲われ、いっそのこと会社の窓から飛び降りて死んでしまったほうが楽だ、という気持ちになるかもしれない。
さらには、出勤も辛くなり、家にいても会社にいても常に憂鬱で、いっそのこと会社を辞めたほうが100倍楽だ、とそう思い詰めるに違いない。
私もそうであった。
自主退職に追い込みたい上司
会議の中で上司は、「あなたの能力不足は明らかだ、会社にとってお荷物だ、退職届を出しなさい、そうしなければ解雇する」と脅迫したのである。
はっきり言って、会社は当然、法律のプロである。
たとえ直属の上司が法律に無知でも、人事部や法務部はバカではない。
日本の労働法が、どれだけ解雇に対して厳しい条件を課しているか、また、トラブルになった場合には解雇無効になることが多いか熟知している。
だから、私にも決して解雇を強行してくることはなかった。
ひたすら、自主退職の形、すなわち自らの口から「辞めます」と言ってくるその一言を首を長くして待っているのである。
精神的に弱いサラリーマンは、たった一度の退職勧奨でも、精神的に相当なショックを受けて、退職届けにサインをしてしまうものである。
ましてや、長年、忠誠を誓って来た猛烈社員、社畜と呼ばれるレベルのサラリーマンであればある程、そうなりやすい。
そのような退職勧奨を、私はPIPの前にも、最中にも、そして後にも受けたのである。
私の答えは、ひたすら「ノー」であった。
決して一言も、「退職します」という言葉は吐かなかった。
私の精神を支えたもの
なぜ、私はそこまで強くなれたのか?
読者の方はそう思うに違いない。
まずは、家族の応援があった。
PIPを1ヶ月も受け、上司3人が同時になって部下1人に圧迫面接で批判と攻撃を繰り返すのであるから、その重圧は筆舌に耐え難かった。
さすがに、家族も「会社はやりすぎだ」、「なにかおかしい」と感じてくれるようになった。
そして、このような不当な退職要求に屈することはおかしいと思って、応援してくれるようになったのである。
ユニオンの支え
私が入っていたインターネットユニオンには、PIPの状況を毎週、逐次報告した。
ユニオンの人が言うには「今は耐えてほしい。会社が悪事を働くままにさせてほしい。それを全部記録して、後で反撃すれば良い」ということであった。
だから、ひたすら毎日あることをノートに記録し、また、自分がやらされている課題がいかに巨大な工数がかかるもので、とても4週間では終わらない分量であるかを客観的に記述し続けたのである。
弁護士の支え
また、ユニオンに紹介してもらった「労働問題に強い弁護士」にも、報告と相談は怠らなかった。
PIPが始まる前には、1時間5000円の相談料を払い、弁護士にすべて話して相談していた。
そして、PIPの様子を記録し、上司の発言もすべて録音に取るように言われた。
とにかく、証拠を残すことが最も大切であると言われた。
だから、私は弁護士の言うとおりに記録し、そしてメールで毎週報告をしていたのである。
上司が言った「倫理的に問題だ!」の批判
PIP中の上司による面談の過酷さについて、一つ述べておきたい。
彼は笑みを浮かべながらこう言った。
「あなたは、PIPが始まる前と始まった後では、勤務態度が異なるね。これは倫理的に問題だ!」
しかも、その内容を書面でも手渡しされた。
私は、後ろから銃を突きつけられて必死に仕事をしているので、当然PIPの期間は緊張して仕事をしているのは当然である。
その気力をそごうとするようなその発言は、非常にショックで、PIPの遂行意欲が半減するほどの、とてつもない苦痛を与えた。
人事部長からの呼び出し
そして、PIPは4週間が過ぎ、ついに私は人事部から呼び出された。
そこで、私は、人事部長の信じられない発言を耳にすることになる。
(続く)
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