絶望感に苛まされたPIPの日々

PIP

前回の記事では、退職勧奨を断ったところ、会議室に呼び出され8人の管理職が列席する前で、PIP (Performance Improvement Plan, 業績改善計画) という文書を渡され、サインさせられたことを書かせて頂いた。

当然だが、これは業務命令として課されたものであり、権力による退職強要だと反論したり、拒否できるようなものではなかった。

拒否すれば即時解雇される可能性が高い場で、これを拒むことなどおそらく誰にもできないだろう、と思う。

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私は泣いた

その晩、私は泣いた。

次の日から始まる地獄のような日々、自分の無力さや情けなさ、人生の不安と絶望。

家族からも見放され、私は負け組として、永遠に社会の底辺に投げ込まれるのではないかという恐怖。

その全てが心の中でぐちゃぐちゃにかき混ぜられて、私の心を暗闇で包み、表現できないような息苦しさが、間断なく私を襲っていた。

次の日から早速、PIPは実行に移された。

私は最大限の注意を払って、どのコンポーネントのどの部分を修正しなければいけないか、洗い出しと工数見積もりの作業を始めた。

それは、約65箇所に及び、それぞれの修正が最低でも4時間ずつはかかると見積もられた。

単純に計算すれば、260時間かかる作業を1か月の間に完遂しなければならない。

毎日、終電近くまでやって、土日もやればおそらくうまくいくかもしれないと思ったが、それにしても通常のソフトウェア開発ではあまり課されないような突貫工事の日程であった。

しかも得てして、ソフトウェアの開発では予期しない隠れた作業が発生して、当初のスケジュールから遅延が発生することも珍しくはない。

なりふり構わず

とにかく、私は何でもいいから、自分が一生懸命やっているという目に見えるアウトプットを出さなければ、危険に陥ると感じていた。

だから、普段はあまりしないこまめな業務報告をマネージャーと、PIP執行者であるディレクターにメールで送る事にした。

付け加えておくと、ここは高いパーティションで各自の席が区切られており、自分から話しかけない限り、他の人と一言も話さなくても1日を過ごせる環境である。

週に一回のマネージャーとのワンオーワン(ミーティング)を除いて、マネージャーに下手に業務報告を入れようものなら、「そんなこといちいち報告するな」、「そんな程度しかできてないのか?」と叱られ、延々と説教が始まることもある。

だから、私は怖くて、普段は上司に自分から話しかけないようになってしまったのだ。

だが、今回は違った。

もう、あと1か月でクビかそうじゃないのかが決まるのだから、なりふり構っていられない状態になっていたのだ。

私は、工数見積もりと、大まかな工程表(開発スケジュール)を業務報告として送った。

だが、当然のように、いつものことだが、返信は一切なかった。

完全なる孤立無援

おそらく、PIPの期間中は、マネージャーにも同僚にも、一切彼の手助けをしないように、とディレクターの命令があったものと思う。

だが、逆に言うと私は、何もマネージャーから反応がなく、説教も受けず、同僚からも完全に切り離された孤独に、妙な安心感を覚えた。

今まで常に私は、上司に叱られ、同僚の前で蔑まれ、自尊心をポロポロにされ続けてきたのだ。

入社以来、一日も会社にいて楽しいとか嬉しいと思う日はなかった。

常に、否定、否定、否定の連続だったのだ。

だから、私は否定がない日々を逆に楽しいと思ったのだ。

だが、週末金曜日の夕方に開かれる、成果レビュー会は恐怖であった。

なぜなら、そこでNGが出れば、その場で即刻荷物もまとめ、社員証を渡してオフィスを後にしなければならないからだ。

命こそ奪われないとは言え、これは日々のノルマを果たせないと重罰を下されるか、処刑されるしかない北朝鮮の強制収容所と何ら変わることはなかった。

現代日本の、一見派手で華やかに見える新宿の高層ビル街で、このような心境で日々を過ごしていた私がいたことを、新宿を行き交う人々は想像もできなかったに違いない。

私は、とにかく毎日、終電近くまで作業をした。

泣きっ面に蜂

実は初日に、作業用のパソコンが起動しなくなるというとんでもないトラブルが発生した。

起動時にハードウェア的なエラーが起きて、そのトラブル解決にまる1日を要してしまった。

しかもPIP3日目には、ひどい歯痛が始まり、耐えられずに半休を取って歯科に行ったら、歯の付け根の奥に菌が感染していると言われ、全治に数週間かかるとまで言われてしまった。

まさに、泣きっ面に蜂とはこのことであった。

しかし、これらのトラブルは、当然のことながら、PIPの前では一切の言い訳にならないことは、直感的に分かっていた。

そう分かっていたものの、やはりほんのわずかな救済の可能性にかけて、私はエラー画面の写真を何枚も取ったり、歯科医の診断書をもらったりした。

私はこのPIPの期間、全く心が休まらず、表情から笑顔は消え、家に着いても家族と話す気力はなく、苦しい、苦しいと心の中で常につぶやきながら、仕事をしていた。

だが、もしかすると、週に一回のレビューを4回連続で突破すれば、晴れて正社員として、長く勤務できるかもしれない、というそういう望みを持っていたのだ。

そういう望みは、今から考えると本当に馬鹿らしいほどゼロに近い実現可能性だったのだが、その当時は、そう考えないと、もう生きていく気力が出なかった。

そして1回目のレビュー会へ

そして、第1回目のレビューの日は、あっという間に容赦なく訪れた。

その場で、私はかつて経験したことのない地獄に投げ込まれることになるとは、全く想像もしていなかった。

コメント

  1. 脱北者 より:

    久しぶりに本編が更新となりましたね。
    このブログに支えられた日々がありました。記事は遡り全て読ませて頂いてます。私も本編に勇気を貰いました。本当に自分の体験と重なる事が多かったです。

    同じ境遇の人の心の支えというか、孤独では無いのかという気持ちになれるので、可能な限り本編の更新に期待します。

    これからも、指針のようなブログ運営お願い致します。

    • パワハラに負けない より:

      ブログの記事に励まされた時期があるとのこと、嬉しく思います。
      本編の記事を読んでくださっている読者がいることに、私も励まされています。
      今後も、本編の記事の執筆を続けていきますので、どうぞよろしくお願い致します。

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