ディレクターからの突然の呼び出し

前回、隣のチームのKマネージャーに苦しい心の内を打ち明けたことを書いた。
K氏は、私がパワハラ上司の元から異動できるように取り計らってくれることを約束してくれた。

その相談から1週間ほど経ったある日の午後、私の席の電話が鳴った。
ディスプレーには、ディレクターのA氏の名前が出ていた。

上司の上司からの直電である。
私は恐る恐る電話を取った。

「はい、安達です。」

「ああ、安達くん、ちょっと、私の部屋に来てくれる?」

「はい、すぐ行きます。」

私は、入社以来そのディレクターと直接話をしたことは一度もなかった。
面接時には30分近くかけてみっちり私の能力や英語力をチェックする面談を行ったが、入社後は、3年間もの間、一切話しかけてくることもない、そんな人物だった。

だから、直電で呼び出されると、期待と不安が入り混じった複雑な緊張を覚えた。
そして、前2社連続でパワハラ退社に追い込まれた私は、そのような状況に「ピーン」と来るものがあった。

「これは、きっと何かあるに違いない。」

私は、前の会社にいたときに買ったO社製の小型録音機を内ポケットに忍ばせると、スイッチをオンにした。

「失礼します。」

私はノックをして、Aディレクターの部屋に入った。

「ああ、安達くん、よく来た、そこにかけてくれ。」

普段、私と廊下ですれ違う際には決して挨拶もしない彼が、今日に限ってはやたら笑顔を浮かべて、私に明るく話しかけてくる。
おかしい、と私はその動物的な本能で異変を感じ取っていた。

「実はね、Kマネージャーからいろいろ聞いたよ。
なんか、安達くん、いろいろ苦労をかけてしまったみたいだね。

Hマネージャー(私の上司)との間でそこまでストレスを感じていたとは、全然知らなかったよ。
ごめん、私の至らなさのゆえだったと思う。」

Aディレクターは、私がKマネージャーに告白した内容を、ほぼそのまま把握しているような雰囲気だった。
私は、Kマネージャーを信頼して告白をしたのだが、まさか、その内容がすべてそのまま伝わっているとは思っていなかったので、ショックであった。

私の心臓はいやが上にも、ドクン、ドクン、と波のように強く打ち始めた。
Aディレクターは続けた。

「私はね、こんな風に職務経歴書を仕事用のFacebookアカウントに載せて、つねに新しいJob Opportunity探しのアンテナを張っているんだよ。」

彼はパソコンの画面を私に見せながら続けた。

「ほら、この前もね、ニューヨークの会社からヘッドハンティングのメールが来たよ。
まあ、あまり大した内容のポジションじゃないから、適当に返事をしておいたけどね、ハッ、ハッ、ハッ」

私は、彼の自慢とも本音とも取れるようなその笑い声を聞きながら、無難な返事を返していた。

「安達くんも、いろいろアンテナを張り巡らせておいたほうがいいと思うよ。
こうやっておけば、いつ何があっても、すぐに新しいチャンスをものにできるからね。」

彼は、そのような感じの話を15分くらいはしたと思う。
そして、それ以上は特に異動とかそんな話は一切言うこともなく、面談は終わった。

私はトイレの部屋に駆け込んでから、胸ポケットの中の録音機を取り出し、確かに15分間の録音がされていることを確認して、スイッチを切った。
胸はまだドキドキしていた。

「これは、きっと何かある。
きっと何かある…」

そう心の中でなんどもつぶやくと、私は自席に戻って残りの仕事に取り掛かった。
だが、その日は、何度もなんども、そのAマネージャーの作ったような笑顔と、SNSに職務経歴書を上げることをしきりに勧められたその面談のことを思い返していた。

そして、翌週の月曜日、私は驚駭の通知に目を疑うことになる。

(続く)

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