前回の記事では、退職勧奨に対する返答として、「ノー」を会社に対して回答したことを書いた。
それは、決して楽な決断ではなかったが、突然、数年間の正社員としての積み上げの放棄を一夜のうちに何の保証もなく迫られたことが、私には悔しくて耐えられなかったのである。
恐怖の1対8面談
そして、次の日、私が出社すると、早速Outlookの予定表に、「今後の業務について」と題された会議の予定が入れられているのを知った。
何と、会議に参加するのは、私を除いて全員、マネージャークラスの人間ばかりであった。
私に退職を迫ったディレクターを始め、私のチームのHマネージャー、隣の開発チームのEマネージャー、品質管理チームのKマネージャー、営業チームのMマネージャー、カスタマーサポートチームのNマネージャーなどなど、普段の業務ではあまり接触のない人まで、まさに管理職陣のてんこ盛り、オンパレードであった。
そこには人事部のS部長の名前まであった。
そしていよいよその会議は始まった。
当然のことながら、私はiPhoneの録音スイッチをオンにして、ポケットに忍ばせた。
(読者の為に言っておくが、録音という証拠がなければ、後でどんなに第三者を交えて争っても、労働者は負けるだけである。
決して書面上で法的に問題になるような表現はいっさい残さないのが、彼らのやり方の常套手段である。)
その会議は、私が社会人として一生忘れることができない位、恐怖とプレッシャーを感じた時間であった。
しかも、実際に出てみると、私が退職を迫られた夜に孤独に打ち震えながら相談を持ちかけたあの古参社員のT氏も同席していた。
そう、まさしくそれは、1対8という絶対的アウェイの恐るべきパワハラ環境であった。
(想像してほしい。
あなたが平社員だとして、会社中の課長以上だけが集まった会議に突然呼び出されて、全員から厳しく詰問されるシーンを。
それを地獄と呼ばずして、何と呼ぶだろうか?)
タイトルに書かれたPIP
そして、私に配られた紙ペラ一枚の書類には、英語でこう題名が書かれてあった。
“Performance Improvement Plan”
そう、これが外資系企業界隈で長く噂と耳にしていた PIP という恐るべき業務改善プログラムが、ついに目の前にはっきりと姿を現した瞬間であった。
だが、私は実はこのタイトルを目にしても、それが何なのか、ほとんど知らなかったのである。
それは、あとから調べてようやく実態を知ったというのが、本当のところである。
そして、ディレクターによる反論を許さぬ口調での説明は開始された。
それは昨日の説明と同じで、1週間ごとのマネージャー全員によるレビューを受け、成果が満たされていなければ、その場で直ちに退職してもらう、という恐ろしいものだった。
私は、「退職するとは、退職届を出すという意味ですか?解雇という意味ですか?」と尋ねたが、彼はやや口をこもらせて歯切れ悪くこう答えた。
「そ、そ、それは詳しくは人事部から説明があると思うが、た、退職してもらうということだ。」
何か慎重に言葉を選んでいるかのような表現だった。
本当は、はっきりと「解雇だ!(Fire!)」と叫びたい気持ちを、必死に抑えているかのような歯切れの悪い回答だった。
恐るべき課題の内容
課題は、あるソフトウェア製品にAという機能を1か月以内に付け加える、というものだった。
よくある機能追加というプログラム改修の業務だった。
しかし、その機能は、何年も前からその必要性が言われてきたものの、長く放置されてきたものだった。
単純に見積もっても、最低3か月はかかるであろう、やや大きめの改修であった。
だが、それを口に出すと、ディレクターは強い調子で完全に上から目線の口調でこう言った。
「いや、これは通常のエンジニアであれば、1か月で十分できる内容だ。
それは、ここにいるマネージャー達やシニアエンジニアとも話して出した結論だから、間違いはない。
これができないということは、あなたに能力がないということだ。
当然、こんなものもできないようであれば、うちの会社にいる資格はない。」
そう、それは私が毎週、マネージャーとのミーティングで詰められてきたのと酷似した表現だった。
結局、マネージャーによる激しい詰めは、このディレクターが背後にいての激詰めだったのだ、とその時はっきりと悟った。
他のマネージャー達はほとんど誰も発言しなかった。
ただ彼らは、ディレクターという社内ナンバー2に近い人間の命令に、ほぼ無言で従わざるを得ない立場であるのは明白だった。
ただ、このPIPの証人として、そして私に強大な恐怖と圧力を加えるために、とにかく数を揃えて同席させているのではないかと感じた。
だが、これは逆に言うと、「成果の改善プログラム」というのは単なる名分で、その実は全社ぐるみで圧力をかけて退職に追い込むという「退職強要」プログラム以外の何物でもないことを如実に物語っていた。
サインせざるを得なかった私
私は最後に書面の下にサインをさせられると(サインを拒めばその場で直ちに解雇させられるような雰囲気だった)、1時間にも及んだその恐るべき取り調べのような恐怖の会議から解放された。
私は、自席に戻るとこう思った。
「ああ、もう俺はダメかもしれない。
こんな恐怖の中でこれから4週間も毎日過ごすなんて、考えられない。
ああ、怖い。
もう死んでしまいたい。
どうしたらいいんだ。
誰か助けて…」
私はその日から毎日、まるで後ろから銃を突きつけられて仕事をさせられているようなユダヤ人のホロコースト収容所の囚人のような気持ちで仕事をすることとなった。
それは、会社にいても、家に帰っても、24時間気の休まることのない日々が1か月も続くことを意味していた。
そこには、北朝鮮の強制収容所のように、「改善」という名目とは反対に、「刑死」という結論しかないことは、その後、身をもって知ることとなった。
それは、一つ間違えば気が触れて発狂か自殺でもしてしまいかねないほど、これまでの人生の中で最も苦しく、最も耐え難い忍耐をしなければならない暗黒の期間だった。
(続く)
コメント
初めまして。非常識な時間帯にコメントしてしまってごめんなさい。
先ほど記事に上げられていた体験談を拝読させていただき、こんなにも酷い労働環境が世の中には存在するのかと読みながら恐怖を感じると同時に、そんな劣悪な労働環境の下で日々の軋轢に負けずに耐えながら戦い続けられた皆さんに敬意を抱きました。
私も皆さんほどではないかもしれませんが、日々胃が痛むのを耐えながら何とか仕事を続けている状態です。
私は常勤の非正規雇用という立場で現在もとある建設業界の会社にて働かせていただいているのですが、最近ではもう耐えられなくなり辞めようかどうか考えています。
よくパワハラの代表例として挙げられる公開説教や罵倒まではいかないのですが、やり方がとにかく陰湿で表面化しないようにあえて個人的に攻撃を仕掛けてくるので、私だけでなく周囲の方々も被害を受けており、酷い方は身体に支障をきたして精神科に通院されている方がいます。具体的な内容として、結果を早く出して実績を上げたいが為にまだ期日まで余裕があるにもかかわらず突然呼び出すなり普通なら〇時間で終わる、何でこんなに時間がかかるのかなどと言って追い込むような事を言ってきたり、直接言わないにしろあえて本人に聞こえるような声と場所であいつは仕事が遅い、他にもっと出来る人はいないだろうかと陰口を叩いたりしてきます。先月退職された女性は何度も呼び出されて帰ってくるなり目が涙目になっており、持病の喘息で定期的に通院しなければならないのを知っているにもかかわらず病院はいつでも行けるだろうと無理矢理引き止められて半強制的に仕事をさせられたりしていました。そのせいでか持病の喘息が悪化した事を理由に退職されました。私は陰で女性が悪く言われているのを知っていたのに助けられなかった事を今も後悔しています。女性を助けなかったバチが当たったのか、今度は私が陰で悪く言われながら女性が退職する前と違って明らかに自分の力量にともなわない仕事をなかば無理矢理に近い状態でやらされています。私も通信制の大学に通っている為に講義に出席すべく早く帰らなければならないのを事前に伝えているので上司は知っているにもかかわらず、1度や2度出なかった程度で成績に響くことはないと言って度々残業を指示してくるようになりました。今になってその小さな積み重ねが限界まで蓄積されてきているのか、時々割れんばかりの激しい頭痛と嘔吐を伴う胃痛、不眠に苛まれるようになりました。病院に行きたくても上司が仕事を理由に行かせてくれないので、ずっと行けないでいます。もうどうしたらいいのか分かりません。ここまで長々と拙い文章を書きつらねてしまって申し訳ありません。今の仕事について切実に悩んでいるので、よろしければ、何かアドバイスいただけると有り難いです。どうかよろしくお願いいたします。
お体大丈夫でしょうか。組織の立場を利用した嫌がらせ、すごく精神的にこたえるかと思います。どうか心身ともにご無理なさらないでくださいね。
私は、外資に勤務しておりPIPを宣告されました。まだ実感ないですが…これって実質上の退職勧告ですね。。?
部門長(外人)が新しく入社してきましたが、私は都合のよい駒ではないようです。今までcontributionはあったのですが。
まだ動揺していて、どうしていいかわかりません。
記事を拝見したら、大変お辛い状況でも戦ってこられたのですね。読むだけでドキドキしました。
このような戦いで自分をたもって交渉し続けておられ、尊敬いたします。
私は、すでに負けそうです…。PIPの業務改善に対応しなくてはならないですが…。
PIPを宣告されたとのこと。
大変おつらい状況かと思います。
状況によっては、退職勧告よりも退職強要になりえます。
今後は、すべての会話などを録音し、証拠として残すことをお勧め致します。
何かあればまたいつでもご連絡ください。
どうか一緒に頑張りましょう。